出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策ポスターを追加作成しました!」

客が店員や従業員らに過度な要求や迷惑行為などを行う「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が、改めて注目されています。東京都は、全国初となる条例制定に動き出し、民間企業でも厳格な方針を打ち出す企業が出てきました。今回は、カスハラへの企業の対応について解説します。

■事例:カスハラへの対応に悩む企業

今年3月、東京メトロは「東京メトログループカスタマーハラスメント対応ポリシー」を制定、公表しました。これによると「従業員の安全な就業環境を確保するため、お客様等から従業員に対する要求・言動がカスタマーハラスメントに該当すると東京メトログループが判断した場合、原則として以降のお客様対応をお断りいたします」としています。

また4月にはJR東日本も「グループカスタマーハラスメントに対する方針」を公表しました。こちらも「当社グループは、グループで働く社員一人ひとりを守るため、カスタマーハラスメントが行われた場合には、お客さまへの対応をいたしません」としていて、カスタマーハラスメントに対してはいずれも厳しい姿勢で対処することを打ち出しました。

Aさんは複数の飲食店を経営していますが、これらの鉄道事業社のカスタマーハラスメントの方針に大賛成の立場です。Aさんの店舗でも来店客からのクレームは毎日と言ってもいいくらい報告が上がってきます。もちろん正当なクレームについてはサービスを向上させるためには有益な情報であり、お客様からの意見を知るための貴重なアンテナであると思っていますから、誠意ある対応をしていく事が基本的な姿勢です。しかしながら、悪質なクレームを言ってくる客も少なくなく、暴言や威嚇、あるいは「SNSに投稿するぞ」といった脅迫などもたまに報告されてきています。中でも最近発生した事件は、カスタマーハラスメントを早急に対処する必要があると思い致されるに十分なものでした。ある店舗に勤務する女性従業員Bさんが勤務中につけていたネームプレートをSNSで検索され、つきまとわれるといったことが起こってしまったのです。Bさんは優秀な人材でしたが、そのことがきっかけになって店を辞めてしまいました。

Aさんは「うちの店でもカスタマーハラスメントには断固として厳しい対応を行おう」と考えています。その一方で、悪質クレームかどうかの判断は非常に難しい問題であるとも思っています。JR東日本が例示した「該当する行為」に記載されていることはその通りだとは思いますが、要求の内容自体には問題がないものの要求態度に問題がある場合や、反対に要求態度には問題がないものの要求内容が受け入れられない場合、またはこれらの複合型の場合などさまざまなクレームがあり、「現場の社員やアルバイトが目の前の事態に対処するには、わかりやすい判断基準が必要だと思うが、では、どのような基準を設ければいいのか」と悩んでいます。